長谷川きよし HASEGAWA kiyoshi
■1949年東京生まれ。2歳の時失明。筑波大学付属盲学校卒業。12歳でクラシックギターを始める。小原佑公氏に師事。'67年、石井好子事務所主催のシャンソンコンクールで入賞。'69年に「別れのサンバ」でデビューし大ヒット。シンガー・ソングライターとして多彩な活動を展開。「黒の舟唄」「灰色の瞳」など多くの作品がある。
■長谷川きよし オフィシャル・サイト
 http://kiyoshi-hasegawa.net/

2008年。6月2日・3日はコロムビア*レディメイドにとっての、一大イヴェントの日です。

東京は渋谷区、恵比寿の、とあるビルディングの地下2階。
円形・すり鉢状のホールに於いて、長谷川きよしさんのコンサート・レコーディングが2日間の日程で敢行されるのです。

この原稿を書いている現在は、6月2日の23時。終わったばかりのコンサート・初日の余韻を心の片隅で、すこしだけ味わいながら、明日も続くこのイヴェントのことを、考えています。

このコンサートは、観覧募集に当選されたお客さまに加え、音楽家、音楽評論家、マスコミ関係者など、招待客の皆さまをお招きして、行われるものです。

奏でられた音、お客さまの反応は、リアルタイムで、ホールに併設されたスタジオに送られ、レコーダーに記録されていきます。後日、その記録に吟味を重ね、パッケージされて、コロムビア*レディメイドより9月に発売となります。現時点では、未だタイトルのない、うたとギターによる、「生きた音楽のアルバム」を、長谷川さんはお客さまと共に現在進行形で制作中です。

今日、明日の「レコード手帖」は、「長谷川きよし コンサート・リポート」と題し、特別編にてお送りします。リポーターは、わたくし、前園直樹です。この大役を全うできるのか、とてもドキドキしています。

前置きはこれくらいにしまして。
それでは、どうぞ、ひととき、お付き合いくださいませ。

2008年6月2日 長谷川きよし コンサート・レコーディング 1日目

■14時30分

会場に到着すると、既にホールのステージには、黒い木製の椅子が一脚。そして、ヴォーカルとギター用のマイクも、スタンドの頭に据えられ、その時を待っています。

ホールに併設されたスタジオで原稿作成用のノート・パソコンを起ち上げるなどしていると、隣の控え室からギターの爪弾きが。
長谷川きよしさん、マネージャーも務められている奥様、そして本日客演、フルート奏者のMAKIさんが既に控え室に入られています。少しご挨拶を。

「こんにちは。失礼します。」
「本日、明日と、コロムビア*レディメイドのサイトをご覧の皆さんに、コンサートの様子をリポートさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします。」

長谷川さん。奥様。MAKIさん。取材のご協力、どうもありがとうございます。

■15時40分

リハーサル開始。
長谷川さん、奥様に伴われ、誰もいない、すり鉢状のホール底部(ステージ)へ降りて行かれます。

ホール内の空気、少しヒンヤリとしすぎでしょうか。空調を少し調節しましょう。

長谷川さん、着席するや否や、ギターを奏で始めました。
エンジニアの秋元さんが、ガット・ギターにあてがうマイクの角度を調節します。

客席用のスピーカーからも、マイクに拾われたギターの音が出力されはじめました。ホールにギターの低音が心地よく響いています。
爪弾き。ギター・アルペジオ。
おもむろに、第一声。


客席には、
奥様。MAKIさん。小西康陽さん。そして、本日明日と写真撮影を担当してくださる、菊池英二カメラマンが座っています。

僕は網膜の筋肉を緩めて、長谷川さんの背後、椅子の下に置かれたギター・ケースの黒を、呆と見つめました。

これから、始まるのですね。

■17時00分

リハーサル終了。
長谷川さん、小西さんたちは、ホールに併設されたスタジオに集合。おこなったばかりのリハーサルの録音を、プレイ・バックしています。

ホール独特の音の拡がりも、しっかり録れている模様。

さあ、これから始まるコンサート。パッケージされる際には、どのような仕上がりになっているのだろう…リハーサルのプレイ・バックを聴きながら、改めて期待は膨らんでいきます。が、まずは本番の今日。そして、明日です。

音作りにも目処が立ったところで、レコーディング・スタッフの迎谷さん、
そして、たったいま来られたばかり、長谷川きよしさんの音楽を、長谷川さんと共にレコード・デビュー当時から作って来られた、プロデューサーの兼松光さんも交えて、しばし、談笑のひととき。リラックスした空気が流れています。

この時間を利用して、長谷川きよしさんから、このサイトをご覧の皆さんへ、メッセージを戴いてしまいました!

『うたとギター。ピアノ。ことば。』の特集ページに以前お寄せくださったコメント以来となる、メッセージ。
上の再生ボタンをクリックして、それでは、どうぞ。
(もう一回クリックで、停止します)

■18時30分

開場の時間になりました。
ホール手前のロビーに、お客さまが続々と入って来ます。

コンサート直前の、独特の空間です。

ご夫婦連れ。恋人同士。友人たちと連れ立って。

どことなく、皆さん、ソワソワしながら。

■19時00分

そして。

「皆さま。ホールへとお集まりくださいませ。」

「長谷川きよし コンサート・レコーディングにお越し下さり、まことにありがとうございます。」

あっという間に開演の時間です。
入口のドアは閉められ、ホール内の灯りは、落とされました。


レコード手帖特別編『長谷川きよし コンサート・リポート』、本日はこの辺にて。
明日はコンサートのセット・リストを交えて、長谷川きよしさんがいよいよ奏でた音楽と、相対する会場の雰囲気などをスケッチしてみようと思います。

(つづく)

長谷川きよし コンサート・リポート。1日目。/前園直樹(2008年6月3日)
(写真撮影:菊池英二)

2008年。6月2日・3日。

東京は渋谷区、恵比寿。
ABSレコーディング・スタジオに併設されたホールに於いて、長谷川きよしさんのコンサート・レコーディングが2日間の日程で敢行されました。

昨日に引き続き、今日の「レコード手帖」も、「長谷川きよし コンサート・リポート」と題し、わたくし前園が特別編にてお送りします。

(昨日のリポートからの続きです)

「皆さま。ホールへとお集まりくださいませ。」

「長谷川きよし コンサート・レコーディングにお越し下さり、まことにありがとうございます。」

定刻の19時から遅れること十数分。いよいよコンサート録音・初日の幕は切って落とされました。

ステージ中央。静寂。
灯りに照らされた木の椅子と。マイクと。
椅子の傍らには、演奏時に左足を置くための、木製の足台も置かれています。

やがて、ステージの袖より、奥様に伴われて、このコンサートの主役、ギターを片手に持った長谷川きよしさん、登場です。
上下、共に黒の衣装に、軽そうな革靴も黒と、まるで飾らぬシンプルな出で立ちも、きっと、僕たちへのメッセージ。

誰からともなく起こった拍手は大きな渦となり、ホール全体に開幕を祝福する空気が充満します。
長谷川さん、着席。

やがて、拍手は鳴り止み、再び静寂が訪れます。
ズボンのポケットから取り出した音叉をポンと膝に撃ちつけ、ギターの胴に当て、調弦が始まります。音叉は、ものの数秒で、元のポケットへとしまわれました。

いま、確かめたひとつの弦の音程から、次のひとつ、また次のひとつの弦へと、自身の耳だけを頼りに調弦は成されていくのです。
ポーン、ポーン、と指が次々にはじいてゆくロング・トーン。その、緩やかな減衰。ホールの、高い天井へと、音符の群れがゆっくりと揮発してゆくかのような。

これが既にイントロダクション。音楽は、始まっているのです。

2008年6月2日
長谷川きよし コンサート・レコーディング 1日目 セット・リスト
歌・ギター:長谷川きよし/(*客演)フルート:MAKI

第一部

1. 引き潮
2. 透明なひとときを
3. 人生という名の旅
4. 別れのサンバ
5. 化粧直し
6. Fly Me To The Moon
7. 愛の讃歌
8. 涙

(15分間休憩)
第二部

9. 月夜の浜辺
10. 汚れっちまった悲しみに
11. 黄昏のビギン
12. 公園の手品師
13. 沈黙のバラ *
14. 旅芸人のバラッド *
15. ラ・ボエーム *
16. コムダビチュード(いつも通り)
17. 後ろ姿

アンコール
18. 僕のピアノのそばにおいで

冒頭。いきなり、未音源化の楽曲。シンガー・ソング・ライター 長谷川孝水(たかみ)との共作楽曲「引き潮」。

「作って歌い出したのは80年代後半。以来、どういうわけかレコーディングされずにいた曲」(ご本人によるMCより)、未音源化とはいえ、「ライヴでは約20年、ずっと歌い続けてきた」「ファンの方からレコーディングを希望する声が多い曲」。

この曲を歌い終えた直後、一度目のMCの際に自己紹介と合わせて

「レコード歌手(=スタジオ録音したレコードやCDをリリースする歌手)になれるだなんて、歌い出した当初は思ってもみなかった」
「ライヴを観に来てくださる皆さんの前で、死ぬまで歌い続けられたらそれでいい、と思っていた」

そう語った長谷川さんが、この2日間のレコーディングの冒頭に「レコード・セールス面」ではなく、「ライヴ会場に足を運び聴いてくださるお客さまの生(ナマ)の反応が大きい」という意味での「ヒット曲」を配した――この事実こそが、今、作られようとしているアルバムの方向性についての、長谷川さんからの明確な打診、であるような気がしてなりませんでした。

僕の分析はほどほどにして。
とにかく、この1曲だけでも、とてつもなく長い感動の余韻を残す、歌とギターの力強く、確かなパフォーマンス。ホール内、集まってくださった長谷川さんのライヴ初体験者であれ、数年来の熱狂的なファンであれ、同等に圧倒されている雰囲気が、手にとるように分かりました。

長谷川きよしさんを扇の要とすれば、彼へと向けられるお客さまの眼差しは、さしずめ、要に集束される扇の骨。送り手と受け手の気配が、目には見えねども美しい扇の型に「決まった」瞬間です。あとは。。もう僕がこれ以上、細かな分析やリポートを加えるまでもなく。
この2日間に残された19曲(39のレコーディング・テイク)に吟味を重ね、パッケージされて9月に日の目を見るコンサート・アルバムの出来に、ただただ、大いなる期待を寄せることにします。

2008年6月3日
長谷川きよし コンサート・レコーディング 2日目 セット・リスト
歌・ギター:長谷川きよし/(*客演)パーカッション:仙道さおり/(*客演)フルート:MAKI

第一部

1. Fly Me To The Moon
2. 透明なひとときを *
3. 人生という名の旅 *
4. 別れのサンバ *
5. 化粧直し *
6. 引き潮
7. 愛の讃歌
8. 涙

(15分間休憩)
第二部

9. 汚れっちまった悲しみに
10. 月夜の浜辺
11. 僕のピアノのそばにおいで
12. 黄昏のビギン
13. 公園の手品師
14. 沈黙のバラ **
15. 旅芸人のバラッド **
16. ラ・ボエーム **
17. コムダビチュード(いつも通り) *
18. 後ろ姿 *

アンコール
19. 世界の果てに **
20. 涙

■僕の手帖から。上に少し掲載した他にも、長谷川きよしさんのMC=言葉のスケッチを少し。印象に残った言葉。登場した音楽家、作家の名前など。歌、演奏は当然ながら、長谷川さんの、思いがストレートに伝わってくるお喋りも、いつも印象的です。様々な音楽への造詣の深さにはいつも恐れ入っていて、僕は心の手帖の、白紙のページを開いて、また僕の知らない音楽のお話を聴けるかと思い、いつもそわそわして、待つのです。お話する際の声はとても優しく、歌声とはまた別の魅力が。

・ (両日共に、調弦=チューニングの合間に)「チューニングが長いことで知られる長谷川きよしです。」→観客の笑い。
・「こんなチューニングの仕方をする人は、今、なかなかいません。」
・「小学校時代から歌が好きで」
・「18歳の時に初めて銀巴里で歌わせてもらい」
・「世が世であれば、シャンソン歌手でよかったものを、どういうわけかフォーク・ブームがやってきて、ギターを弾いて歌う人は皆、フォーク歌手、と呼ばれる時代がありました。未だにフォークの人だと思っている方もいるようなのですが、フォークの歌は、ほとんど歌っていないはずなのですが。」

HENRI SALVADOR / 三橋美智也 / 春日八郎 / 北島三郎 / JACQUES BREL / 永六輔 / 中村八大 / CARTOLA / GILBERT BECAUD / CHARLES AZNAVOUR / CLAUDE FRANCOIS / 越路吹雪 / 岩谷時子 / 椎名林檎 / フランク永井 / 宮川哲夫 / 吉田正 / 平岡精二

・(1日目「僕のピアノのそばにおいで」の曲紹介にて)「フランス語(原詞)ばかりで歌っていたシャンソン歌手の田中朗さんが唯一、きれいな日本語で歌って驚き、感動した。」
・(2日目「コムダビチュード」を歌い終えての、曲紹介。「マイ・ウェイの原曲」という箇所を強調して)「どうもありがとうございました。マイ・ウェイの原曲、コムダビチュードを聴いていただきました。」
・「原詞に忠実な訳詞を。」→もっとも印象に残った言葉のひとつ。

■今回の2日間のコンサート、第一部と第二部の間に設けられた休憩時間、或いは、終演後に聞いた、知人たちの声です。

・「1曲目から鳥肌が立ちっ放しだった。」
・「久々にこんなに音楽に集中した。」
・「ギター、めちゃくちゃ巧いですよね。」
・「何度も涙が溢れそうになった」
・「初めてです。こんなライヴ。」
・「本当は演奏をじっくり見ていたいんだけど、あまりの素晴しさに、うつむいちゃうね。」
・「今日(2日目)しか聴いてない人には昨日(1日目)のライヴも聴いて欲しくなった。」
・「リズム(=仙道さおりさんのパーカッション演奏)が入ると、長谷川さんのギターのノリも全然違ってくるね。」
・「長谷川きよしさんのライヴのことを考えると勉強が手につかなくなったので、来ました。」

そして、これ以外に、多くの方から戴いたのが、言葉になりきれていない、言葉。「ウーン」とか、「ネ。」とか、「いやあ。。」とか。唸っているお方。一も二もなく、今の興奮をその場の誰かと共有したい衝動に駆られているお方。打ちひしがれて放心状態のお方。お気持ち、どれもお察しいたします。アンコール、アンコール。

「レコード手帖」特別編『長谷川きよし コンサート・リポート』。いささか、とっ散らかった構成になってしまいましたが、とにかく、「興奮」が伝わったとすれば、僕のリポートは成功、ということになります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

2日間の日程で行われた公開録音を追いかけさせていただきましたが、その実、長谷川きよしさんのおかげで、僕にとっては、また改めて音楽の偉大さ、素晴しさについて思いを巡らすことの出来た充実の2日間でした。一点だけ、私情を挟ませていただくと、音楽の作り手というか、そもそも聴き手としての自分の未熟さを、また思い知らされた2日間でもありました。君は、本当に音楽が好きか? と。

長谷川きよしさん。そして、僕にこの機会を与えてくださった皆さん。さらには、音楽そのものへ感謝したい気持ちで、いっぱいです。感動と興奮の長い長い余韻に浸りながら、この原稿を書いている今は6月4日の午前3時。そう、午前0時の締め切りの時間は、とうに過ぎてしまいました。ああ。

9月発売予定、長谷川きよしさんの新しいアルバムに期待しながら。。最後は皆さんと一緒に、長谷川さんからの、2日目のライヴ直後の心境、そしてこのサイトを見ている僕たちに向けてのメッセージを聴きながら、この特別編を締めようと思います。下の再生ボタンをクリックして、それでは (もう一度クリックで、停止します)。

(完)

長谷川きよし コンサート・リポート。2日目。/前園直樹(2008年6月4日)
(写真撮影:菊池英二)

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